「韓国の思想と文化」勉強会 2

　昨年度大好評だった「韓国の思想と文化」勉強会の第２弾です。昨年に引き続き、思想や文化を掘りさげて学びます。
　今年は、前期３回、後期３回の計６回です。前期（５月から７月）は、歴史・宗教・芸術・文化を中心に進め、後期（９月～11月）は、近現代の問題を扱う予定です。
　講師は、昨年に引き続き、金香淑先生です。昨年から引き続きの方も、今年初めての方も、ぜひご参加ください。韓国およびアジアの理解は21世紀日本の緊急で重要な課題です。

● 金香淑先生　プロフィール

　1965年韓国慶州生まれ。釜山大学人文学部日本語・日本文学科卒業。啓明大学大学院修士課程を経て、1993年東京大学大学院総合文化研究科に入学。同超域文化科学専攻比較文学・比較文化コース修士課程および博士課程修了。学術博士（東京大学）。現在、京都造形芸術大学非常勤講師（民俗学）、日大でも韓国語を教える。著書に『朝鮮の口伝神話―「バリ公主神話」集』1998和泉書院。先生は仏教、伝統音楽などにも造詣が深い。

● 金香淑先生　インタビュー　「韓国と日本は背負っているものが違います」
　　（東京自由大学ニューズレター４号掲載）

東京自由大学初の海外合宿となった2005年8月の韓国夏合宿、その準備の勉強会を通じて八面六臂の活躍してくださった金香淑先生（京都造形芸術大学非常勤講師）にお話を伺いました。

―まず日本語との出会いや先生の研究について教えてください。

金　日本語は高校のときから、釜山大学では日本文学を専攻、卒業論文は太宰治論です。卒業後、啓明大学大学院に進み修士論文では「古事記」を取り上げました。太宰から古事記というとみんな驚きますが、そのころ啓明大学に金思燁（キム　サヨップ）先生という日韓の古代語の研究で著名な教授がおられたので、先生に魅かれて神話の研究を始めました。研究内容は「スサノオの英雄性」についてです。スサノオというと荒ぶる神という悪いイメージがありますが、そうではなくて英雄としての性格を備えているという主旨です。

―その後東大に留学されるわけですが、東大では比較文学比較文化研究ですね。

金　韓国神話の文献研究は日本に来てからはじめました。釜山には芸術家や宗教関係の人々が多く、大学時代には伝統音楽のグループの活動を通して、合宿でも演奏してくださった笛の人間国宝、金東表先生や先日亡くなったムーダンの金石出先生などのユニークな方々と交流していました。日本に来てからの学問は、韓国でのそういう時間を基にして発展しています。

―朝鮮の神話の特徴は何ですか？

金　日本神話は早い時代から文字化され、皇室の神性を証明するものでした。朝鮮の神話は口伝の時代が長く、一番早い文献でも12世紀です。また、李氏朝鮮は儒教が国是だったので神はいません。儒教は漢文が読める支配階級の男性のもので、民間では巫俗的な神話が女性を中心に根付いていました。

―先生が育ってこられた現代の韓国の社会的状況ついてお聞かせください。

金　1965年生まれですが、高校生ごろまでは洗脳教育をされていて、北朝鮮は非道な恐ろしい存在だと思っていました。朴正煕大統領の暗殺事件をはじめ軍事クーデターなど1980年代はまだ暗い時代でした。外の情報はカットされていましたが、私はこっそり手に入れた日本の雑誌などで少し情報がありました。1985年に初めて日本の語学学校に6週間留学したとき、あまりの違いに呆然、世界が崩壊しました。日本の若者は自由で原宿では竹の子族が踊っていました。暗い韓国に帰りたくなくて泣いたくらいです。1988年の韓国オリンピックから変わって行きますが、1995年くらいまで大学生が反米・反政府運動で死んでいました。そういう面では日本との時差が20、30年くらいあるのではないでしょうか。

―韓国と日本の国民性の違いはなんでしょうか。

金　まず、背負っているものが違います。日本は個人が意地を張ってがんばるという必然性がない社会です。韓国では個人の能力が家や国家の存亡につながっており、家や国を救うために最大限に能力を発揮しなければ追い込まれてしまうことがある。それは、国民性云々というより国が位置する場所の問題です。手を伸ばせば中国に首根っこを押さえられる。日本もアメリカもやってくる。廊下や道端に国を構えているようなもので、みんなに邪魔だからどいてくれとか、貸してくれといわれ続けてきた国です。外圧が常にあったことと、民衆が心の慰めとして宗教を求めることとは関係があるでしょう。

―先生はシャーマニズムを研究しつつ、仏教にも造詣が深いですね。

金　日本に来る前に海印寺の金剛窟の不必という尼さんのもとで出家する寸前まで行きましたが、俗世に戻ってきました（笑い）。学問もさることながら、宗教的境地、精神性の問題が一番の関心事です。

―ありがとうございました。今後もどうぞよろしくお願いいたします。

金先生一口メモ：
1965年11月11日生まれ（旧暦）。B型。姉二人と弟一人。好きな俳優はチャンドンゴン、高倉健。趣味は音楽。音楽が流れていると、どこでも立ち止まって聴いてしまう。希望・日韓の交流の為に若い人に韓国語を学んでほしい。

2005年9月14日　於・東京自由大学事務所聞き手・鳥飼美和子

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